C i n e m a T h e r a p y
7.運命をあきらめているあなたに
『きっと星のせいじゃない』2014
監督 ジョシュ・ブーン
出演 アンセル・エルゴート
シャイリーン・ウッドリー 他
全米オープニング興行成績 No.1 だった大ヒット映画です。
原作はジョン・グリーンのベストセラー小説。16歳で亡くなった友人をモデルに書き上げた『さよならを待つふたりのために』。
こちらのタイトルをご存知の方も多いかもしれません。
ヘイゼル・グレースは末期ガン患者。学校にも行けないため友達もなく、どこへいくにも酸素ボンベを手に移動しなければならない生活を送っている。
ある時両親のすすめでいやいや参加したガン患者の会で、片足を切断して骨肉腫を克服したガスと出会う。
恋に落ちたガスは、距離を置こうとする彼女にプレゼントを用意する。ヘイゼルが大好きな作家にメールを送り、返事をもらったのだ。二人は作家に招かれオランダへ行くことになるが・・・
この映画、とにかくタイトルの妙といえるでしょう。素晴らしいひねりを加えた邦題になりました。
「The Fault In Our Stars」とは、「この罪は星のせい、偶然、つまり運命だ」という意味になります。
自分の力の及ばないところで偶然に起こることは仕方がないこと。
これを映画に当てはめてみると、「ガンになったのは偶然のことだ」ということになるでしょう。
「The Fault In Our Stars」とは、もともと、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」からの引用です。
シェイクスピアでは「The Fault In Not Our Stars」で、「ブルータス、何かあればそれは運命ではなく、私たち自身の責任だ」という意味で使われます。
つまり偶然ではなく、必然だ、ということです。
しかし、邦題はどうでしょう?「きっと星のせいじゃない」つまり偶然じゃなく必然だ、ということ。
原題とまったく逆のタイトルになってしまいました。
Not がついたシェイクスピアの意味合いになってしまいます。
「ガンになったのは自分のせいだ、必然なんだ」と。
ここが日本語の素晴らしい柔軟なところと言えます!
運命とは、「偶然」にも「必然」にも使えるんですよね!
偶然に起こったこと、必然に起こったこと。どちらも運命と言えますね。
つまり、「ガンになったのは偶然(星のせい)の運命かもしれないけど、ガンになったことで二人が出会えたのは必然の運命(星のせいじゃない)だ」
「きっと星のせいじゃない」私たちの出会いは運命だ。
きっと、たぶん、と言う意味の言葉をつけているのも素敵な日本語の使い方だと思います。
この映画はメタファーがあちこちに散りばめられているので、まずはぜひ観ていただきたいと思います。
どんなことを感じるでしょうか。
不治の病をかかえた主人公の恋愛物語、という単純なものではありません。
限られた時間をどう生きるかは、健康も、年齢も、本当は関係ないのではないでしょうか?
運命というものがあるとしたら、それに抗えないものだとしたら、その制限の中でどう生きるのか。
たとえ運命で決められていることがあるとしても、何かを選ぶことも、作ることもできるはず。
例えば、どんな家族のもとに生まれてくるのかは選べません。
どんな身体をかかえて生きていくのかも、途中、どんな身体になるのかも、選べないかもしれません。
でも、自分の世界の中を、あるいは手にしているものを、ひとつずつ確認してみませんか。
もっと良い親の元に生まれてきたかった。
もっとお金持ちだったら幸せだったのに。
もっと小さいころからちゃんと勉強しておけばよかった。
これらは、もうどうしようもないことなのでしょうか。
星のせいで、あなたは幸せになれないのでしょうか?
では、今のあなたには何がありますか?
これさえあったらよかったのに、と執着してしまうところには、あなたの幸せはないのかもしれません。
それ以外のところに、きっと何かがあるのです。
偶然でも、必然でも、何かがあるところにあなたの「運命」が見つかるのかもしれません。
幸せのないところへの執着を捨てられないのなら、それを持ったままでもかまいません。
ぐるっと、あるいは深く、他を見渡してみましょう。他の道を行ってみましょう。
偶然、必然、運命は、それこそ星のごとく、たくさん存在しているのかもしれませんから。
自分に降りかかった運命を嘆いているだけの作家が、若い二人の選択や歩みに触れることで何を見つけたでしょうか?
主人公の最後の手紙には、何が書いてあったか思い出せるでしょうか?
病気があろうとなかろうと、人の一生はあまりに短いです。
どの道を選び、歩んでみるかは、あなたの決断しだいなのです。
きっと、そこにあなただけの「運命」を見つけることができるでしょう。